ノートルダム大聖堂:鐘につけられた名前 | 『ノートルダムの鐘』

「ノートルダム大聖堂」の鐘

現在、ノートルダム大聖堂の鐘(Cloches)は全部で10鐘(10個)あり、1681年にかけられた最も大きい鐘は南の塔に配置されている「エマニュエル」(Emmanuel)で、その直径は約2.6m、重さは13トン以上もあります。

1461年にフランソワ・ヴィヨンによって書かれた「Le Grand Testament」に書かれているノートルダム大聖堂の大きな鐘は「ジャクリーン」という名前で、この名前はパリ司教ジェラール・ド・モンテギューの弟であるジャン・ド・モンテギューの妻の名前でした。「ジャクリーン」はFlorentin Le Guayによって1680年代に再鋳造されました。その再鋳造で作られたのが前述の「エマニュエル」で、その名付け親はフランス国王ルイ14世とその王妃マリー・テレーズ・ドートリッシュです。ちなみに、名前の「エマニュエル」(Emmanuel)はヘブライ語で「神は私たちと共にあり」という意味があるそうです。

「エマニュエル」や後述の「マリー」のような大鐘は「bourdon」(ブルドン)と呼ばれ、組み鐘の中で一番低い音を出します。

1769年のノートルダム大聖堂には北の塔に8つ、南の塔に2つ(「エマニュエル」と「マリー」)、尖塔に7つの鐘がありましたが、その後、1789年のフランス革命の混乱で鐘は取り外され、北の塔の8つ鐘とブルドンの「マリー」などが1791年から1792年の間にかけてフランス革命において陸軍の銃の製造のために溶かされてしまいました。唯一、ブルドンの「エマニュエル」はナポレオンの計らいによりその破壊から逃れ、1802年に元に戻されました。
その後、1856年には、Les Benjaminesと呼ばれる4つの鐘が北の塔に配され、1867年には尖塔に3つの鐘がつけられるなどしました。
しかし、この1856年に鋳造された4つの鐘は「エマニュエル」の音と音程がずれているなどの欠陥が目立つようになり、2012年にはそれらを取り外すべきだと決定されました。
その翌年の2013年はノートルダム大聖堂が建てられてから850年を迎える聖年で、結局「エマニュエル」を除く全ての鐘を新しくすることになりました。

1856年にも鐘を鋳造したノルマンディの鋳造工場ビルデュー(Villedieu)で新しい8つ鐘の鐘が造られると同時に、より大きな「マリー」と呼ばれる鐘がオランダの工場ロイヤル・アイスバウツ(Royal Eijsbouts)で鋳造されました。新しい9つの鐘はすべて元の鐘の音色(1789年頃、フランス革命時の音色)を再現するように設計され、2013年の1月31日に大聖堂に届けられてからしばらくの間大聖堂で展示された後、3月23日に初めてその音が響き渡りました。
この2013年の鐘の交換にかかった費用である200万ユーロ(約2億4000万円)は全て寄付によって賄われました。

現在、南の塔の「エマニュエル」の隣にある「マリー」は鋳造から300年以上経つ「エマニュエル」の負担を軽減するために鋳造されたものです。前述の通り、現在の「マリー」の前にも同じ名前の鐘があり、フランス革命の頃に溶かされてしまいましたが、それが原作の「Notre Dame de Paris」に出てくる鐘「マリー」であると思われます。
現在の「マリー」は「エマニュエル」の半分ほどの重さですが、それでも6トン以上の重さがあり、その直径は2mを越えます。また、最も小さい鐘の「ジャン・マリー」ですら重さが約780kg、直径は約1mあります。
現在はモーターによって鐘が鳴らされていますが、モーターが導入されるまではロープを使って人力によって鳴らされていました。

現在の「ノートルダム大聖堂」にある鐘

現在パリの「ノートルダム大聖堂」にある鐘は南の塔に2鐘、北の塔に8鐘の合計10鐘です。

「エマニュエル」(Emmanuel-Marie-Thérèse) (エマニュエル・マリー・テレーズ / エマニュエル・マリア・テレジア)
キリストとエマニュエル・マリー・テレーズ・ドートリッシュに奉じられました。1685年鋳造。南塔のブルドン(大鐘)のひとつで大聖堂にある鐘の中でも最大のものです。重さは13トン以上、直径は約2.6m。名付け親はフランス国王ルイ14世と王妃マリー・テレーズ・ドートリッシュ。2012年に「マリー」が鋳造されたことにより、クリスマスや復活祭など限られた機会にのみ鳴らされるようになりました。ヨーロッパで最も美しい音の器とも呼ばれています。
「マリー」(Marie) (マリア)
大聖堂そのものと同じく聖母マリアに捧げられました。この名前は1378年にあった最初のブルドンの名前でもあります。現在のものは2012年鋳造。現在の南塔のブルドン(大鐘)のひとつです。重さは約6トン、直径は約2mです。鋳造から300年以上経つエマニュエルの負担を軽減するために鋳造されました。名付け親はルクセンブルク大公妃(SAR la Grande-Duchesse de Luxembourg)。鐘にはアヴェ・マリアの祈りが彫られています。
「ガブリエル」(Gabriel)
天使ガブリエルに奉じられています。ガブリエルはイエスの受胎を聖母マリアに告げた天使です。現在の北塔にある鐘の中で最大です。
「アンヌ・ジュヌヴィエーヴ」(Anne-Geneviève)
聖母マリアの母である聖アンナとパリの守護聖女ジュヌヴィエーヴ(Geneviève de Paris)に捧げられています。聖女ジュヌヴィエーヴは451年にフン族の王アッティラがパリに攻めてきた際にパニックになって逃げようとする人々を鎮め説得し、町を放棄しないよう呼びかけ、フランク族が攻めてきた464年には敵の包囲によって飢餓に陥った人々のために包囲網を抜けて北の町から食糧を持ち帰ったとされています。
「ドニ」(Denis)
キリスト教の殉教者であり最初のパリ司教でもあるサン・ドニに奉じられています。サン・ドニについては別ページ「ノートルダム大聖堂」とはで少し触れています。
「マルセル」(Marcel)
9代目のパリ司教、聖マルセルに捧げられました。
「エティエンヌ」(Étienne)
最初の殉教者でありパリのこの場所にあった最初の聖堂の名前でもある聖エティエンヌに捧げられています。
「ブノワ・ジョセフ」(Benoît-Joseph)
2013年に退位を決めたローマ教皇ベネディクト16世にちなんでいます。ベネディクト16世のフランス語読み(Benoît XVI)のブノワと教皇の本名ヨーゼフ・アロイス・ラッツィンガー(Joseph Alois Ratzinger)のフランス語読みジョセフを組み合わせたものです。
「モーリス」(Maurice)
12世紀に現在のノートルダム大聖堂の建設を決定した72代司教のモーリス・ド・シュリーにちなんでいます。
「ジャン・マリー」(Jean-Marie)
139代目パリ大司教であるジャン・マリー・リュスティジエの名前にちなんでいます。10鐘の中で最も小さく、一番高い音を担当しますが、それでも重さが約780kg、直径は約1mあります。

[blogcard url=”http://www.notredamedeparis.fr/la-cathedrale/linterieur/cloches-et-bourdons/” title=”Cloches et Bourdons | Notre Dame de Paris”]

作品中に出てくる名前

原作

1482年が舞台の原作では以下の15鐘が登場します。

南の塔:大鐘(ブルドン)「マリー」(Marie)、「ジャクリーヌ(ジャクリーン)」(Jacqueline)
二番目の塔(おそらく北の塔のこと):6鐘=「ガブリエル」(Gabriel)「ティボー」(Thibault)「ギヨーム」(Guillaume)「パスキエ」(Pasquier)と、ふたつの鐘 (名前が呼ばれないふたつは『おまえたち二羽は?スズメのやつだな。』(スズメ:Moineaux)と描写されています。)
後陣の上の鐘楼:いちばん小さな鐘が6鐘とひとつの木鐘

15の鐘の中では「マリー」が一番大きく、北の塔の6つの中では「ギヨーム」が一番大きく、「パスキエ」が一番小さい鐘です。
原作の中でも「ジャクリーヌ」はその鐘を大聖堂に寄進した「ジャン・ド・モンタギュ」の夫人の名前にちなんで付けられたと記述されています。

アニメーション映画版

アニメーション映画版では、以下のような会話があります。

Quasimodo:That’s Little Sophia. And Jeane-Marie, Anne-Marie, Louise-Marie. Triplets, you know.(英)
Quasimodo:Ça c’est Petite Sophie. Et voici Jeanne-Marie, Anne-Marie, Louise Marie ! Des triplés quoi.(仏)
カジモド:あれがリトルソフィア。それからジャン・マリー、アン・マリー、ルイーズ・マリー!三つ子なんだよ。(日)

Esmeralda:And who’s this?
Esméralda:Et ça c’est qui ?
エスメラルダ:これはどなた?

Quasimodo:Big Marie.
Quasimodo:Marie-Bourdon.
カジモド:ビッグ・マリーだよ。

───『The Hunchback of Notre Dame』『Le Bossu de Notre-Dame』『ノートルダムの鐘』

ミュージカル版

劇団四季の『ノートルダムの鐘』の舞台セットにある鐘は全部で7つです。一番大きいものは高さ1.3m、横幅は1.5m以上です。
鐘のそれぞれにセンサーが取り付けられており、センサーが反応することで音が鳴ります。それぞれに異なる音階を奏でるそうです。

一番大きな鐘が「マリー」、その他に「ジャクリーン」「ガブリエル」と呼ばれる名前の鐘があることがわかっています。一番大きいのが「マリー」、修理する必要があるねと言われているのが「ジャクリーン」。
その他4つの鐘の名前は調べられませんでした。